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2013年05月06日 (月) | Edit |

「二人組になって、お互いにからだを揺らしながらからだをほぐし、力を抜いていく心地良さは格別だけど、これを普段の生活の中で一人でやるにはどうしたらよいか?そのやり方を教えて欲しい。」と云う要望を、参加者の方々から頂きました。
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                              野口体操「ぶら下がり」

次回のワークショップは、一人で出来る「ゆるゆる体操」(野口体操)を中心に進めようと思っていますが、その辺りのことを整理の意味も兼ねて、文章に起こしておきます。
ゆるゆる体操の基本には、三つのことがあります。

■ひとつは、「からだを感じる」ことです。

普段私たちは、首から上部と手先の感覚を重点的に使っています。目・耳・鼻・舌・手先など、主にこのような感覚に頼って生活や仕事をしています。結果としてそれ以外の感覚は、ほとんど注意に昇ることがありません。

たとえば背中で何かを感じ取ったり、足の裏で床の感じを意識するようなことは、普段は全くありません。また、皮膚の内側、つまり、からだの中身の感覚に注意を払うこともしかりです。結果、からだの多くの部分が、身体感覚の地図上では、未開・未踏の地域となっています。

からだをゆるめるためには「からだを感じる」、つまり感覚的に暗黒大陸扱いをされているからだの隅々、さらにその奥深くにまで注意を払い、感覚を目覚めさせなければなりません。感じることが出来るようになれば、からだの強張りや歪みが自分で分かるようになってきます。そしてそれを正そうとする自然の働きが、活発に動いてくることも感じることが出来ます。

■もう一つは「重さを感じる」ことです。

からだの緊張を抜く力は、地球の重力(引力)によるものです。手を頭上にまっすぐ持ち上げれば、肩や腕の筋肉は緊張します。力を抜くには、緊張をゆるめて腕をぶら下げます。このとき腕は重力によって引き下ろされて、腕自体の重さで地球の中心方向へと引き伸ばされます。緊張状態とは筋肉を引き縮めている状態で、それをすべて解除するには、自分のからだの重さを感じて、それを地球からの引力の方向と一致させてることです。こわばりは地球の重力によって、僅かずつながらも確実に引き伸ばされ、ストレッチなど意識的な努力によっては達成できない状態へと、からだがゆるんでいきます。

■三つ目はからだの動きを「イメージとしてとらえる」ことです。

からだを水の詰まった皮の袋ととらえたり、水中のワカメをイメージしながら動いたり、からだの動きを風の流れに見立てて地面の中まで流れ込んだり、柔らかな布をイメージしたりと、例えればきりがありませんが、骨格模型や筋肉の対構造など科学的な知識を利用してからだを動かすのではなく、からだの全体の動きを、イメージとしてとらえるとき、からだの動きはあざやかに変化し、からだ全体が生き生きと動き始めます。緊張は動きによって洗い流され、深い解放感を得ることが出来ます。

「からだを感じる」「重さを感じる」「動きのイメージ」、これが、からだとこころの緊張をほどく基本です。野口体操から学んだ、身心へのアプローチです。

ここで注意をして欲しいのは、普通体操というと、筋力を鍛えたり、身体の曲げ伸ばし(ストレッチ)をしたり、飛んだり跳ねたり、ポーズをとったり、、、、、と、身体を使って、様々な運動をすることだと思われています。そこには意志(精神力)によって身体を操作し、理想の身体を作り上げていくという考え方が隠されています。

そのため普通の体操では、どう身体を動かせばどのような効果があり、何を目的とするのかが、個々にはっきりしています。

例えば、エアロビクスの様々な動作をすることで身体の循環機能を高め健康になる。筋トレをすることで、体力を増進し病気に負けない強い体を作る。ウォーキングをすることで脂肪を燃焼しメタボを直す。インナーマッスルを鍛えて美しく健康な身体を作り自分に自信を持つ。などなど、どれも方法と効果とその目的とが示されています。

ここでもう一度ゆるゆる体操に戻りますと、「からだを感じる」「重さを感じる」「動きのイメージ」を基礎として取り上げましたが、そこには意識的努力によって身体を操作したり、鍛えたりということが、全く述べられていないことにお気づきでしょうか?実はここに、ゆるゆる体操の特徴があります。

普通は、体操と言うと自分の身体と能動的(アクティブ)に関わり、自らの意志と努力によって理想を達成します。意識が主体で身体はそれに従う素材であり、意志をもって高めていく対象となります。

「からだを感じる」「重さを感じる」とは、意識を受動的な立場に置くことです。「~する」というアクティブな位置から身を引いて、「~を感じる」という受動的(受け身)の位置に意識を置くことになります。また「イメージ」も、それは思い描くものであり、直接にからだを操作することではありません。

それではゆるゆる体操は、何もしない体操なのか?それでは意味がないではないかと言われそうです。思い(意識)どおりに身体をアクティブに鍛えていくという発想の側からは、その通りに考えられると思います。実際にゆるゆる体操をやってみても、こんなことに効果や意味があるのかと疑問に思うことでしょう。

実は、ゆるゆる体操は、私たち一人一人の身体の中にあって私たちの行動や生命活動を支えている、自然の力とその働きに身を委ね、その力が存分に働くように身体の準備するのが目的です。からだという自然、その働きに自己を委ねる。結果として、心と身体の健康や安心、集中力、想像力、体力が養われます。そのために、意識は受動的な態度に徹することが重要になるわけです。

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写真は、野口体操の基本となる「ぶら下がり」の運動です。

上半身を股関節のところから前に倒し、力を入れずに、土台となる足の裏から末端となる腕や頭まで、身体の隅々までの感じに注意を向けます。
膝は曲げすぎると下半身が動きづらいし、突っ張って伸ばし過ぎると脚が固まって棒になります。どんな小さな動きにもからだ全体が反応しやすいよう、膝の感じは縮こまらず、突っ張らずの、ちょうどいい感じの伸ばし具合を見つけます。(からだを感じる)

からだ全体を感じたまま、ゆっくり息をはくと、息が出ていくに連れて、ぶら下げた上半身が自らの重さで、重力の方向(地球の中心)に向かって沈み込んでいくのが感じられます。
地球の引力によって、上半身の重さが引き下ろされ、上半身の力が抜けていきます。(重さを感じる)

上半身を重さに任せたまま、足の裏で地面を左右交互にゆっくり小さく踏みかえます。足から身体の中を通って、末端となる腕や頭へと、ゆるゆると波が伝わっていきます。(動きのイメージ)

波の動きはからだの隅々にまで伝わり、微細なマッサージのようにからだの各部分がほぐされます。ほぐれてゆるんだ部分は、重さによってさらに引き伸ばされ、波の動きは、さらに繊細微妙で細やかな動きへと変わっていきます。水に例えれば、氷がこまかく砕かれ、やがて溶けて流れだし、波立ち、そして湯気になってゆらゆらと揺れながら立ち上っていく。動きにつれて、からだの動きの質(イメージ)が変化していきます。からだを動かすことの心地よさ気持ちよさが体感され、動くことが楽しみへと変わっていきます。

ゆるゆる体操を一人でやる場合のむつかしさもあります。

体操や運動とは、意識的に身体に指示を与え、やり方を見習ってお手本や形通りに身体を動かすものと、私たちは学校などで思い込まされています。動くときのからだの感じやイメージを意識することは先ずありません。そのため、動こうとすると、知らずしらずに意識的な指示による緊張努力が先に立ち、からだが緊張すれば緊張感のほうが大きくなり、繊細なからだの感じは消されてしまいます。一人で出来るようになろうと、努力すれば努力するほどに、ゆるゆるからは遠ざかってしまうわけです。

指示的な緊張は身体の表面的な出来事です。そんなときには、からだのもう一つ奥深くに意識と感覚を向けてみてください。そしてからだの感じが奪われない範囲で、先ずは細やかにからだの内側を揺らしてみます。大切なのは動きの実感を直接に求めないまま、からだの中の出来事に静かに耳をかたむけることです。野口体操の創始者野口三千三先生はその態度を「からだに貞く(きく)」という言葉で表していました。

「ぶら下がり」の動きにかぎらず、アクティブな体操・運動・身体表現、または日常の挙措動作の中へも、「からだを感じる」「重さを感じる」「動きのイメージ」を持ち込むことができます。自分のからだと出会いを深める手がかりとして、この一文を利用して頂ければ何よりありがたく思います。

ゆるゆる先生こと 瀬戸嶋 記す

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