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2020年05月29日 (金) | Edit |
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猿股さんという役をやった。ちんどん屋の親方だ。太鼓とラッパを鳴らしながら街中を練り歩く姿は知っていたが、よくよく考えて見たらそれ以外のことは何も知らない。当時は、ちんどん屋のことをずいぶん調べたものだ。

子供のころにはちんどん屋さんと、「さん」をつけて呼んでいた。子供心にただならぬ印象を受けとっていたのだろう。ちんどん屋さんに会うと、畏敬の念というのだろうか、恐れと喜びが同居していた。

「ハーメルンの笛吹き」という物語がある。子供たちが笛の音に誘われて連れ去られる話。ちんどん屋さんも同じだ。ただし現代の笛吹きは、客をさらうために緻密な計算をしている。街全体を舞台にして、パチンコ屋やスーパーの開店など、街の動線を計算しながら人の流れを呼ぶ。音楽を選び、そのにぎやかな響きで街中を染め上げる。

子供のころに「馬鹿、河馬、ちんどん屋、お前の母さん出ベソ」という悪口ことばがあった。なんでここにちんどん屋が出てくるのか不思議だが、「ちん」「どん」「や~」という音は、強く心を打つ。「で~」「べそ」の音と相まって、悪態を明るく響かせる。

こうやってちんどん屋さんのことを思うだけで、心が弾んでくる。「ヘブンアーティスト」などと言って、上品な大道芸人がいるが、そこにはちんどん屋さんのあの化粧くさい匂いは無い。品のなさが上品にふるまうところの崩れた魅力もない。昨今の大道芸はアーティストであって芸人ではないと言うことだろうか?

さておき、ちんどん屋さんは街自体の光景を彩り浮き立たせる。街全体の空気を塗り替える。これが本来の大道芸人だろう。非日常へと人々をいざなう稀人。

1986年5月20日 第一刷、彼らの根拠地は大阪天下茶屋。当時の下町の賑わいと人間の生々しさが読める。ここ4年ほど、私は近隣の釜ヶ崎を定宿にして関西のワークショップを続けてきた。年々街路の小便臭さが薄まっていき、今ではうっすりとしか臭わない。臭いのは鬱陶しいが、匂いの無いのはうら寂しい。冷たい死を思わせる。

ちんどん衣装の私が囲碁をしながら「ほう、象が電話を掛けるんですか?」「可愛いですね」「で、象印!」。猿股さんのそんなセリフを舞台上でつぶやいたら、大きな手で象がダイヤルしてる様が、私の眼の前に浮かんできた。人間と演劇研究所創設のころ『私の青空』(北村想 作)を上演。臭い芝居だった(笑)

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