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2020年05月19日 (火) | Edit |
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「火事場の馬鹿力」。腰の曲がったお婆さんが箪笥をかかえて颯爽と逃げ出す話。生活を守らなければと緊急事態に我を忘れて必死になって、限界スイッチが切れてしまう。自分では(他人から見ても)、思い掛けない身体精神能力が発揮される。笑い話のようだが、スポーツの方では「ゾーン」入ると言う。今はやりの言葉だ。

竹内敏晴のレッスンに「虎の飛び込み」というのがあった。「からだ」の物理的な筋緊張=強張りを解除してから、「虎」の存在イメージに自己=「からだ」を明け渡す。

8メートルほど向こうに置かれた餌(手ぬぐいタオル)に襲いかかる。タオルと自分の間には障害物(6~7名ほどの人が四つ這いで脇を合わせて並んでいる)。

一匹の虎(一人の受講生)が雄叫びをあげ走り出す。地(床)を蹴り、虎の胴体が宙に舞う。障害物(人の列)を越えて、餌に食らいつく。(タオルを手に掴む)

その跳躍は、サバンナで獲物に襲いかかる虎そのものである。獣性が宙を舞い、一瞬ではあるが人間の動作や姿を忘れてしまう。

竹内演劇研究所「からだとことばの教室」には器械体操などには縁の無い非体育会系の参加者が多かった。いわゆる運動音痴の人が、レッスンの中では体幹(胴体)を地面に平行に伸ばして宙を翔ける。なんとも見事であった。

グロトフスキーはポーランドの演出家。1968年に英語版が出版、写真の日本語版は1971年に初刷発行。

観念や知識で覆いつくされ、飾り立てられた身体。飾りを剥ぎ取ることで露わになるいのちの鼓動と想像力。当時のArtにおける、いわゆる「からだ」の復権に大きな影響を与えた本だろう。

声についての実践も面白い。頭の天辺から声を発して天井にぶつける(響かせる)その反響に集中してその変化に、声で答えて行く。声の対話。

「からだ」中の共鳴装置を開放するレッスン。四つ這いになり、腹から床に声をぶつけ(響かせ)、腹の底から遠景に向かって虎の遠吠え。声のエネルギーの原初の力の開放。レッスン場の空間が震えを起こすような声の力。火事場の雄叫び(馬鹿力ならぬ馬鹿音声)というところか。声を出した当人が自分の大音声(おんじょう)にビックリすることがよくある。

書き出せばキリがない。竹内敏晴『からだとことばのレッスン』の生まれるにあたっては、この『実験演劇論』の影響が大きい。この本に書かれているグロトフスキーの実践・実験を、竹内が身をもって研究してきたことが、竹内のレッスンの誕生に連なっている。同じように『野口体操』という野口三千三の実践・体感が無ければ、竹内レッスンは生まれ得なかった。竹内レッスンを研究或いは実践しようと思うならば、グロトフスキーと野口三千三の体験体感が必須となる。

『自我の限界を超えて魂を他者の眼前に晒す』その試みを記録した本。火事場の馬鹿力を、いかにして開放することが出来るか。その方法・手がかりに満ち満ちた本と言っても良いと思う。

身体表現について語り、創造を試みるとき、この本を無視することは出来ない。スポーツなどにも手がかりを与えることだろう。豊富なレッスンの実践例と写真・図案。それを観るのが楽しみでもある一冊。

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