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2020年05月19日 (火) | Edit |
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友人たちから「安英(やすえ)さんが舞台に登場すると、眼を離せなくなる。心を奪われてしまう。」と聞いたことがあります。舞台に立った途端に観客を役の世界へと引きこんでしまう。夢中に『させられて』しまう、見ている人自身の自己の覆いが帳消しにされてしまうのです。

私は実際の舞台を観ていませんが、竹内敏晴の文章からも安英さんの存在を身近に思っていました。彼女の逸話に魅かれていました(竹内は演出を担当していた)。安英さん一人の舞台ではありませんが木下順二作の「子午線の祭り」では、「舞台上に、本当に壇ノ浦での合戦の光景が見えてくる!」これも当時舞台を見た友人の感想です。

日本の近代演劇は築地小劇場から始まっています。大正時代(明治?昭和?うろ覚え)です。それ以前には演劇はなかった。というのは私たちが日常的にしゃっべている言葉を、そのまま舞台に載せることが無かった。山本安英さんは、日本の近代演劇が生まれる場に関わった女優さんです。現代の日常的な言葉で、観客に分かる言葉で話が進んで行く演劇の、その元を辿っていけば築地小劇場の一点に帰って行くのです。

今までに無いものを作り出していく。(正確には築地での近代演劇の始まりは、ロシア演劇の模倣から始っています。イギリスならばシェイクスピアの言葉は現代人でも意味が分かるそうです。日本ではそうはいかなかった事でしょう。舞台で普段話している言葉を聞くなどと誰も考えていなかったことでしょう)その過程が、実際にどんな実践を潜(くぐ)って来たのか?俳優の立場から具体的に描かれています。

話し言葉を作り出していく過程です。私たちが普段当たり前のこととして、話したり聞いたりしている『ことば』。それを日常に埋もれた地平から引きはがして、研究・実習し舞台に活かして行かなければならない。不思議な時代だったと思います。

山本安英さんは小柄で細長い顔(瓜実顔?)、失礼な言いかたをすれば、決して美人とは言えない容姿です。可愛さや美形が売りの女優さんではありません。それが舞台に立つと、観客を心底から魅了してしまう。その力はどういう経過をたどって獲得されたのか。私はこの本を読み返すことで、人間の魅力とは何か?それを開くにはどんな手立てがあるのか?繰り返し学ばせてもらいました。

1992/12出版。演劇を志す人には、必読の書だと思うのですが。おい茂った枝葉や鮮やかな花実だけを見るのではなく、幹や根っこを確かめて欲しいのです。決して呑み込みやすい内容では無いと思いますが。。。すでに絶版ですね。

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