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2016年04月22日 (金) | Edit |

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脊髄小脳変性症で闘病されているご家族と、野口体操を通じて係わりがありました。

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友人の勧めで難病の女性とお目にかかりました。彼女は介護ベッドに半身を起こし、眼をむき、拳を固め細い腕を胸に引き付けるように硬直させ、小刻みに荒い息遣いをしていました。

脊髄小脳変性症という難病で、原因不明のまま筋肉の硬直が進み、リハビリ(理学療法)によって硬直の緩和を繰り返し続けなければなりません。リハビリと医療の介助が無くては、硬直によって呼吸が不全になり死に至る病です。

ご自宅の居間で、ベットの上の彼女(Tさん)は、透けるように色白で細身の身体を、ガーゼの寝間着につつみ、眼差しは、開きっぱなしで硬直し、光るガラス玉の様。なにかを訴えているようにも警戒しているようにも思えました。

筋硬直により発語も発声もできません。家族の方も看護・介護・OT・ヘルパーの方たちも、言葉による交流は成り立たないと諦めているようです。一方的に、お人形に話しかけるような話し方をしていました。意志の疎通が不可能と見ていたのだと思います。

そもそもは、担当のヘルパーさんから、ゆるゆる体操(身体の緊張を弛める:野口体操の応用)をTさんにやってあげてほしいと言われてのことです。旦那さんが熱心な人で、OT(理学療法士)のリハビリだけではなく、筋緊張を緩和するために整体やマッサージの人達にも施術をお願いしたのですが、効果がはかばかしくない。そこでヘルパーさん自身が「ゆるゆる」してみたら、緊張が抜けて気持ちよさそうに見えた。だからゆるゆる先生(瀬戸嶋)が直接に見てあげてくださいと、云うことでした。

ご主人からは、腕と首の硬直がひどいために、気道と胸郭が圧迫されて、呼吸が十分に出来ていないというお話しでした。私はともかく身体に触れさせて下さいとこと言って、身体の様子を見せてもらいました。

ご主人は、腕の拘縮と首をのけぞる緊張が、何とかならないかと見ている様子でしたが、私は、股関節から足先まで、下半身の緊張が気になりました。これは健常の人でも同じなのですが、下半身の緊張が十分に緩んでいないと、呼吸は深くなりません。Tさんの片脚を私の膝にのせ、揺らしたりマッサージをしたりしながら、脚全体の緊張を弛めて行きました。

下半身を揺らしながら、Tさんの表情を見ると、上半身の感覚に注意がとられているように見えます。「上半身の感覚だけに注意が向いています。脚の方に注意を向けて下さい」ふだん教室でやっているレッスンと同じように、Tさんに指示を出しました。すると私が触れている足先に注意が移ってくる手ごたえがあります。外部からは全く意志の働きがストップしているように見えていた彼女の身体の中で、意志が働いていたのです。

脚の硬直が緩み、わずかながらも息が深くなってきました。こんどは、「く」の字に硬直している肘を伸ばそうと、Tさんの腕を手に取りました。「く」の字を平らに伸ばそうと、揺らして緊張を弛めながら、ほんの少しづつ力を加えて行きます。ところが肘を伸ばそうとすると硬直が強くなり抵抗感が増してくる。

もしやと思い「Tさん、自分で肘を伸ばそうと努力しないでください。手伝わなくて良いですよ。私に協力して動かそうとするのを辞めてください。」と声をかけました。再度、肘を伸ばしていくと、僅かづづですが肘がのびて、腕が、胸の前からベットの面に降りてきました。息も深く大きく吐けるようになり、表情も心なしかゆったりとして、頬がほの赤く上気しています。

立ち会っていた、ご主人もヘルパーさんOTさんも、驚きながらも、奥さんが良い表情になったと喜んでいました。

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その後、寝たきりのTさんと、周囲との関係が変化していきました。伺うたびに、お部屋の雰囲気が明るく優しい感じになっています。

硬直した筋肉を、力ずくで伸長(ストレッチ)することが無くなりました。Tさんの身体から発されるメッセージ(手ごたえ・感覚)を、たとえそれが言葉にならなくとも、聞き逃さぬように、なでたりさすったり、触れかたが優しくなりました。

伸長するときも筋肉の状態をよく感じとりながら、僅かの力で少しずつ変化に付き添うことが普通になりました。日に数回の、力づくのストレッチによる疲労困憊から解放されて、ご主人は肩の荷が下り、介助の苦しさが和らいだようです。

Tさんは、言語や顔の表情、身振りなど、意思表示をする機能は停止しています。けれども周囲の様子は感知しているようです。ご主人や介助者の言葉は理解しているようです。

彼女への話しかけも変わりました。耳が聞こえている人への会話になりました。ご主人へ「ご主人はTさんのことを心配ばかりしていますけど、本当はTさんのほうが、ご主人の心身の様子をちゃんと分っていて、とても心配しているようですよ!ご主人は自分のことをもっと大事にしてください。その方がTさんも安心できるし、嬉しいのではないでしょうかね?」。Tさんにも「ねっ!Tさん」。こんな話も交わされるようになりました。

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言葉を失うことで、感じる世界が開けてくるようです。言葉を絶対視するとき、こぼれてしまう世界があるようです。もちろんTさんとご主人の、夫婦の愛情の深さあってのことですが。


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