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2016年07月28日 (木) | Edit |

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浄瑠璃語りの女流名人が、市民ホールで独演会をされた時のことです。私はホールの中段に席を取り舞台に眼を向けていました。

もう名前も忘れてしまいましたが、義太夫節の女流名人が舞台に歩みでて、照明に照らされた座布団に腰をおろしました。正座をして三味線を構えた時のことです。

竹の子のように地面から生え出たようなその姿。お臍から下は地面に埋まって、三味線を掲げ、すっきりと背すじを天に伸ばした姿に、私は眼を瞠りました。(地面に埋まっているわけでは無いのですが、座布団にぺったりと膝頭を収めた姿が、私にはそのように見えたのです)

当時(2000年頃)私は、身体の「大地性」に興味を持っていました。「地に足を着ける」ことが、日本においては表現・健康・文化など、全ての土台になっていると考えて、「からだ」の在り方を探っていたところでした。

私の友人がお師匠さんの弟子で、彼女に誘われて神奈川県の厚木まで真夏の照りつく暑さの中をたまたま演奏会に伺ったのですが、思いがけない「からだ」との出会いに私は内心唸り声を上げていました。

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あれから15年、今では都会人から「大地性」と言う意識が奪われてしまっているようです。「そんなことは無い、グラウンディングを大切している」と、ボディーワークを指導している人から意見をされそうですが、大地に根を張り頭をすっくと天に向けた竹の子を思い描いて、それを実践している人はどれだけいることでしょうか?

もう少し言えば、この時の名人の姿からは地面と大地の境や区別は消え、まるで大地(地球)を下半身にして、その上半身が三味線を奏でているようにも見えました。観客はまさに大地=名人の懐に身を委ねて、三味線の音と謡いに聞き入っていたのです。

本来、大地と天は一体なのかもしれません。それを世界と呼び、天地に包まれて観客は義太夫の差し出す下半身=大地の裳裾に乗って、浄瑠璃語りの開く世界に遊ぶのでしょう。

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しばし、浄瑠璃語りの謡いと三味線が続きます。私は初めての浄瑠璃観賞で、訳の分からないままに、演奏に聞き入っていました。語り(謡い)に耳を澄ませていると、さわさわと不思議な響きが聞こえてきます。語りに和すように、軽くて低いうねりが場内を満たし始めました。

舞台から目を移して、恐る恐る場内の様子をうかがうと、客席に座った人たちが何か低く呟いている。舞台の謡いに合わせて、浄瑠璃を語っているのです。

観客は舞台の演奏を黙って見るものだ、沈黙しているものだという常識が、私の意識の中に強固に仕込まれていたのでしょう。思いがけぬ出来事に私の意識は混乱し、会場の空間に響く声がまるで私を異界に誘うように聞こえていました。

休憩時間に友人が笑いながら「驚いたでしょう。ここ厚木ではこれが当たり前なんです。客席の人も一緒に謡うのです。もともと厚木は、人形浄瑠璃が盛んな土地だったからかも知れませんが。」と教えてくれました。

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「からだとことばのレッスン」は、共に一つの物語を生きることを大切にしています。

日常的常識的に分け隔てられた自分と他者の壁を越えて、非日常の世界=物語の世界に遊ぶ。私たちは物語の鑑賞者の立場を離れ、物語の言葉に導かれてあちら(想像)の世界へ、そしてその美しさを身体的な想像力によって直接に体験し、物語を愛でる。

観客や演技者の区別はありません。その場に集う「いのち」は、一つの美しさ(イメージ)の開示を目指して、日常的な我(自我)を忘れて生きる。そしてその美しさが、各自の「こころ」=「からだ」の中に住まうことを互いに認めあう。

これは本来、様々な芸能の存在意義でしょう。原初的な時代から人間のコミュニティーには無くてはならないものだったはずです。

いま思えば、私にとってこの浄瑠璃演奏会での体験は、現在のレッスンに至る大切なマイルストン(道標)になっていたようです。

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先日、琵琶湖畔和邇浜で合宿ワークショップを開催しました。賢治童話の「ことば」に導かれ、参加者一人一人の「からだ」(=意識下)に秘めた、美しい世界に見(まみ)えることが出来ました。日常を超えて非日常の岸辺に立つ。意識の介在を許さずに「いまここ」に立ち尽くす。その厳しさを参加者全員の「いのち」が乗り越えてくれたように思います。

ありがとうございました。

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「そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲の間から、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな、白い火のようにゆれて光ました。」(宮沢賢治童話「鹿踊りのはじまり」冒頭の言葉)

「それから、そうそう、苔の野原の夕陽の中で、わたくしはこの話をすきとほつた秋の風から聞いたのです。」(同、文末の言葉)

二泊三日の琵琶湖合宿、今回の物語は「鹿踊りのはじまり」でした。

次回は、10月8日~10日、三浦半島の「YMCA三浦ふれあいの村」にて開催です。


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